昨年10月、救急病院から受け入れを断られ、都立病院で妊婦が死亡する事件がおきました。「先進国」の首都・東京の周産期(※)医療がいかに危機的状況かが、改めて明らかとなりました。
※周産期=妊娠22週から生後満7日未満までの期間
周産期をめぐる調査の実施
生活者ネットは、この事件の前から、都議会で周産期医療の問題をただしてきました。
昨年7月には、小児総合病院として周産期医療に取り組む長野県立子ども病院を視察しました。
これを受け、都内全域で「どこで子どもを産みますか調査」を、9月から2カ月かけて行ないました。
調査の目的は、地域の周産期医療の実態と、妊産婦が抱える問題を把握し、安心して子どもを産めるまちづくりへの政策立案です。
調査方法は、一人ひとりの聞き取りと記述によるもので、853人の協力を得ました。
調査結果からみえた実態
回答者の出産時の年齢は、30代前半が最多、30代後半がその次、40歳以上も31人でした。
想定以上に高齢での出産が多く、リスクを抱えた出産の増加が伺えます。
それを裏付けるように、今回の調査結果で、帝王切開は100例(14.1%)、妊娠中毒症など妊娠中のトラブルは10例(1.4%)でした。リスクへの対応が急務なことは明らかです。
自由記述では、用紙びっしりの記述が多く、出産がいかに大事業かが表れていました。
●出産場所について
病院が88.8%で多数でした。
場所選びには、生活圏内にあることを重視し、リスクへの対応力も大きな選択要素となっています。
●出産場所の評価
医師・看護師・助産師が多く、対応が親切な病院が、高い評価となっています。産科医の確保・産後サポートの充実が求められます。
●出産と退院後に困ったこと
出産で困ったことの第一は、出産、検診の費用です。他に、検診の待ち時間、医師などの厳しい応対、里帰り出産で産前産後の医療機関などとの連携が取れないことなどでした。
退院後に困ったことは、母乳に関することが最多で、次いで上の子の世話と家事でした。
上の子の世話は、家族の支援が大半で、他に保育園に預ける、ファミリーサポートやベビーシッターを利用するなどでした。赤ちゃん返りに苦労している例も予想外に多く、上の子にかかわる時間を増やすための手助けが求められています。
●サポートするのはだれ?
夫の協力は、部分的な協力を含めると8割以上。実母、姑の協力も8割でした。日常的な家事援助や子どもの世話などに、家族の協力が不可欠なことがわかります。しかし、そのような協力が得られない場合、社会的なサポートなしに子育てをすることが、いかに困難かを示したものといえます。
●行政に望むこと
行政に望むことは、次のとおりでした。
★出産や健診にかかる費用負担への助成の拡大(340人)
★産科医の確保・産院の増設や24時間対応の小児科の整備(142人)
★保育の充実や保育園の増設、上の子の一時保育などの充実(113人)
★出産場所や子育てに関する情報・育児手当や補助などの情報や相談窓口の充実や開設(45人)
★助産師・助産所への支援(29人)
★ベビーカーで歩けるバリアフリー・ユニバーサルデザインのまちづくり(12人)
★乳児をもつ親の仕事時間の短縮、父親の育児休暇取得があたり前の社会づくり(11人)
調査結果から政策立案に
この調査で、多くの母親が、出産に関する情報を懸命に集めていることがわかりました。また、出産や育児を通し、社会との関わりが増え、行政への要求、関心が向けられています。これらの声から次の通り政策立案を行いました。
1. 「断らない」 救急体制をつくる
2. NICU(新生児集中治療室)などの増床と周産期医療ネットワークの確立
3. 医療従事者の労働環境の改善
4. 高次医療機関・産科医・助産師の役割の明確化、院内助産所や助産師外来の活用、助産所と後方支援病院の柔軟な連携の強化
5. 14回までの妊婦健診の無料化
6.上の子の一時保育や家事援助サービスなどの充実で、産前・産後のケア体制を強化する
7. 乳児をもつ人の仕事時間の短縮、父親の産休・育休取得の推進
8.助産師を活用し、中学生頃からの健康教育を充実する
どこでも安心して出産できる周産期医療体制の構築や、子育て支援の充実は重要な課題です。
生活者ネットは、政策の実現に取り組んでいきます。
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